その日が来る前に、知っておきたいこと、考えておきたいこと
―生産緑地とは―
生産緑地とは、1992年に生産緑地法で定められた土地制度の1つで、簡単に言うと「最低30年は農地・緑地として土地を維持する代わりに税制優遇(固定資産税が安い)を受けられる」ものです。
【特徴1】30年間の営農義務
生産緑地に指定されている土地の所有者に対しては、「30年間の営農義務」が課されます。
また、営農義務以外にも以下のことを守る必要があります。
・生産緑地を農地として管理しなければならない
・生産緑地である旨を掲示しなければならない
・生産緑地地区において建築物や工作物の造成、土地に手を加える行為はできない。ただし、農林漁業を営むための施設等は市町村長の許可を得て設置・管理できる
【特徴2】相続税の納税猶予
相続や遺贈により生産緑地を取得した場合、その取得者は生産緑地分の相続税の納税猶予を受けることができます。通常と比べるとかなり優遇されますが、これはあくまでも「納税猶予」であることに注意が必要です。
例えば、終身の営農義務が課されている生産緑地において、相続人が営農を廃止した場合、相続時までさかのぼって相続税が課税されるとともに、猶予期間に応じた利子税まで支払わねばなりません。なお、納税猶予された分の相続税の支払いが免除されるのは、営農相続人の死亡時のみとなります。
【特徴3】固定資産税の優遇
通常、農地は宅地とは異なる方法で固定資産税評価額が計算され、納税額が安く抑えられています。
しかし、市街化区域内にある土地については宅地並み評価され、納税額が高くなってしまいます。なお、東京都や愛知県、大阪府ならびにその近県にあたる区域の市街化区域農地は「特定市街化区域農地」に分類され、通常の市街化区域農地(一般市街化区域農地)よりさらに高い納税額となります。
一般農地 | 千円/10a |
---|---|
生産緑地 | 数千円/10a |
一般市街化区域農地 | 数万円/10a |
特定市街化区域農地 | 数十万円/10a |
―生産緑地の「2022年問題」とは―
生産緑地には「2022年問題」と呼ばれる問題があります。
生産緑地は1992年に一斉に指定されているため、指定の日から30年の営農義務が終える2022年に一斉に生産緑地の指定解除がなされることになります。生産緑地に指定されている間は他人に譲渡することができませんでしたが、30年の営農義務経過後は市町村に対して買取の申し出をすることが可能になり、結果として大量に市場に土地が供給され、地価の下落を引き起こすことが懸念されているのです。
先述の通り、一般農地は固定資産税が安く抑えられていますが、市街化区域内農地については宅地の評価となっています。生産緑地の指定が解除されると固定資産税の減免もなくなることから、所有し続けることの負担が大きいことも2022年問題が懸念される理由の一つです。
―2022年までの所有者の対処法―
2022年問題が訪れるまでそう時間もありません。現在、生産緑地の所有者の方が2022年問題が起こるまでに取れる対処法としてはどのようなものがあるのでしょうか。
1.農業を続ける意思がある・後継者がいる
まず、今後も農業を続ける意思があるか、もしくは後継者がいる場合には特定生産緑地の指定を受けるべきだと言えます。生産緑地の指定が解けると税制優遇を受けることができなくなり、その負担額の大きさから農業を続けたくても続けられなくなってしまうかもしれません。
一方、特定資産緑地の指定を受けると10年ごとの更新制で税制優遇を受けながら営農を続けることが可能となります。特定生産緑地の指定は市町村がすることとなっているので、管轄の市町村の動向を見ながら準備を進めるとよいでしょう。
2.農業を続ける意思がない・後継者もいない/納税猶予していない
一方、農業を続ける意思がなく、後継者もおらず、納税猶予もしていないという場合は特定生産緑地の指定を受けることなく宅地転用して売却してしまった方がよいでしょう。
生産緑地の指定が取れてしまっては固定資産税の負担も大きくなります。なお、主たる従事者が寝たきりであるなど故障理由に該当するなら2022年を待たずして生産緑地を解除することも可能です。
3.農業を続ける意思がない・後継者もいない/納税猶予している→2022年までに亡くなる
一方、農業を続ける意思がなく、後継者もいない状態ですでに納税猶予している場合、生産緑地を解除されてしまうとそれまで猶予されていた相続税とその利子を支払わなければならなくなります。
このケースで、2022年までに主たる従事者が亡くなってしまった場合は、その時点で生産緑地の買取申出を申請すべきだと言えます。
4.農業を続ける意思がない・後継者もいない/納税猶予している→2022年を過ぎても元気!
一方、農業を続ける意思がなく、後継者もいない状態で、すでに納税猶予している場合で2022年を過ぎても元気!という場合、特定生産緑地の指定を受けて2022年以降も土地を維持することをおすすめします。
これは、「途中で生産緑地の解除をしてしまうとそれまで猶予されていた相続税や利子を支払わなければならない」からで、2022年以降、主たる従事者の方が亡くなった時点で生産緑地を解除すればよい、ということになります。
―まとめ―
1992年に改正された生産緑地法により「30年の営農義務」が課され、30年経過後は市町村に買取申出できることから、2022年には大量の土地が市場に溢れる2022年問題が懸念されています。
しかし、生産緑地法の改正された1992年から現在までの間にさまざまな法改正が行われ、生産緑地のもつ可能性も変化しています。